『村長ありき』初版(左)、増刷19版(中、右)

 『村長ありき』
 最悪の自然条件を強いられた寒村を日本一の福祉村に甦らせた村長。村民の心を理解し、適材者を活用し、自らも命の限り村政一筋に生きた深沢晟雄の苦闘の生涯を描いた及川和男さんのノンフィクション。(左写真 深沢村長胸像)

 豪雪と貧しさで乳児死亡率県内一の無医村沢内村、そこが戦後中国大陸から命からがら帰ってきた晟雄の生まれ故郷であった。村のために何ができるのか----戦前と少しも変わらぬ現実の厳しさの中で、この地に骨を埋める人間としての覚悟を固める彼。ナメコ教育長、ブルドーザー村長、陳情村長、説教村長、カマド返し村長、赤ちゃん村長、そして生命尊重。村人たちが敬愛の念をこめて彼におくった数々のニックネームは、深沢村長の卓越したリーダーシップのもとに達成された業績を語っている。

 沢内村は、昭和36年(1961年)に60歳以上の高齢者の無料診療を全国に先駆けて開始、昭和37年(1962年)にわが国初の乳幼児死亡ゼロという金字塔を樹立した。そして沢内村は、地方自治の自主権をつらぬき、政治とは何か、政治とはどうあるべきかの規範を示している。

 幻の名著『村長ありき』10年ぶりの増刷
 まぼろしの名著と、古書界で言われつづけてきた「村長ありき」が、平成十年六月、およそ十年ぶりに十九刷として世にお目見えした。

十八刷まで増刷されつつ、又、新潮文庫の一冊としても出版された本書が、書店から消えたと知ったときは驚きでした。地元ひいきと言われるかも知れませんが、店頭から姿を消し、いくら注文しても無駄とわかったときから、そのことを知る者同士が、ひそかにまわし読みをしていたのでした。そして、どこへどのようにまわってしまったのか、行方知れずとなって、ますます本書の需要が高まっていったのです。

 今、密かにほくそ笑みながら、著者は十九刷を保持しています。そして、このことを知った者だけが、同じくほくそ笑みながら、本書を手にしております。

 沢内村の村長となった深沢晟雄は生命を大切にする行政を展開していきます。あるときそれは県の施策と衝突をおこしたりもします。しかし、生命を大切にする信念はビクッとも揺らぎません。

 昨今、特に青少年の不祥事をめぐって、こころの教育の大切さがクローズアップされています。戦後の価値観の崩壊と経済合理性の追求が今日の精神風土を形成し、それが事件として随所に表れてきているのではないかと考えるのですが、ひとえに生命を守ることに情熱を傾注した深沢晟雄の生涯は今、一層光を放って輝いています。

 併せて、児童図書の「生命村長」(童心社)も紹介しておきます。(右写真)
(一関市 岩井憲一)


『村長ありき』増刷こぼれ話
 『村長ありき』をほしくて書店に注文したら、しばらくして 絶版との連絡があった。知人が上京した際に古書店で文庫本を入手した。出版元に問い合わせると、文庫本は絶版ではないが増刷していなかった。古書店のホームページで検索して、たまに見つけても、問い合わせるといつも手遅れ。上京のたびに古書店をのぞくが見つからなかった。そんなこともあって、「新潮社への増刷のお願い」をホームページに掲載し、メールを送ったこともあった。

 著者の及川和男さんにお目にかかり、一冊譲ってくださるようにお願いしたが、及川さんご自身の手元にも残っていない状況だった。それからしばらく後になって、及川さんからメールをいただいた。『「村長ありき」がついに増刷となりました。さる5月8日、沢内銀河高原で、医院開業のお手伝いをしている公認会計士の会の研修会で講演した際に、本の在庫がないことを話したところ、われわれの会で1000部買い取ってもいいから、新潮社に掛け合えと言われ、交渉をしてきました。その結果、全部買い取りという条件ならば可能との返事をもらい、結局小生の買い取り700部とあわせて1700部の買い取り増刷にこぎつけました。流通にはまわりませんが、今後の講演や、沢内村関係でさばいていくつもりです。自分の代表作の本がないことは、何ともつらいことでしたが、これで当分は需要に応じられると喜んでおります。』とのことだった。増刷ができると同時に、友人たちの分も含め、及川さんから必要部数を譲っていただいた。

『村長ありき』が復活しました
(2001.9.5 及川和男さんからおたより)

 1984年1月新潮社より刊行し、わたしのノンフィクションの代表作といわれてきた『村長ありき』は、その後18刷りまで版を重ね、89年には同社の文庫にもなったのですが、長いこと絶版状態がつづき、新しい読者に大変ご不便をかけてきました。ところが!このほど日本経済新聞社の「日経ビジネス人文庫」から復活しました。同文庫編集長の小林さんのおかげです。新文庫本のタイトルは、『「あきらめ」を「希望」に変えた男』です。9月3日から全国の書店で発売されています。

 今村さんには、このホームページで、3年前の著者買い取りによる19刷り(1700部)について働きかけやご紹介をいただきましたが、これからは手軽に購入できるようになりましたので、よろしくお願いします。

 私の「文庫本へのあとがき」と、岩手県知事の増田寛也さんの「沢内村の生命尊重行政」と題する解説がつき、深沢晟雄村長の写真も取り入れてあります。一冊税込み700円です。今、閉塞状況をどう打開するかという時代的テーマが、時代そのものによって突きつけられていますが、そのような時、 新しい読まれ方が期待されます。