磐井川の桜 一関市 横田実さん撮影

 磐井川の源流は栗駒山(地元では須川と呼ぶ)にあり、山頂近くの須川温泉(右写真)から流れ下る強酸性泉の影響を受け、やがて小さな沢や支流がいくつも合流して徐々に水質を中和しながら下っていく。

 磐井川上流部には、多くの地滑り地帯がある。透水性の高い地質が深さ約30メートルまで続き、その下に滑りやすい泥岩や緑色凝灰岩があり、大雨の際に地滑りを起こすためといわれている。土砂は川の両岸を削りながら流出し、険しい地形を作り出している。

 地滑りを起こしやすい地域の一つを空から眺めた。林道ができ、山林は皆伐され、数多くの砂防ダムが見える。山肌は木材を重機で搬出した跡が赤茶けて目立つ。かつては美しかった渓流も、木材搬出路に使われて見る影もない。自然は空から楽しむものではないらしい。

 国道342号の昇仙橋の下では、砂防用としては珍しいアーチ型をした矢びつダム(左写真)のコンクリート壁を音を立てて水のカーテンが落ちて行く。ダムによって生まれた湖は瑠璃色に輝いている。瑠璃色の湖水については、さまざまな要因が考えられるが、強酸性の水質が金属類を溶かしてイオン化させるためといわれている。この付近では紅葉時期のコントラストが美しい。ダムから流れ落ちる水しぶきはときに虹をも見せてくれる。

 途中に照井堰の堰堤がある。ここで磐井川の水は農業用水として取水される。渇水期になれば枯れて河床を露出させた磐井川の横を照井堰からの農業用水がとうとうと流れる景色は対照的である。

 磐井川の中流に来ると、両岸の巨石をえぐり、渦を巻き、しぶきを上げ、奇石を縫って約2キロにわたって流れるエメラルド色の厳美渓(左写真)にさしかかる。この素晴らしい景観も、渇水期には生活雑排水の比率が上がりよどんだ水が異臭を放つこともある。「昔に比べ水が減った。雨が降ると直ぐに増水する」と言われるようになったのは上流の山の保水力が低下したからだろう。

 磐井川の流れに沿って、須川温泉真湯温泉、祭畤(まつるべ)温泉、矢びつ温泉、厳美渓温泉などが涌出し、一関温泉郷として親しまれている。

 かってカスリン・アイオン両台風で大きな被害を出した市街地に入ると、川の緑地帯を利用した磐井川河川公園がある。テニスコートやサイクリングコースなどがが揃い、春には桜、春まつり、いわい牛まつり(右写真)、夏祭りの花火大会、秋の芋の子会、冬は白鳥と、四季を通じて市民の憩いの場になっている。公園を有効活用して行われる各種イベントには、親子連れを中心に多くの人が詰め掛けて賑わう。

 市街地を通り抜けた磐井川は、銅谷川、吸川といった市街地を流れる支流の汚れた水を吸収し、水質を低下させながら大きく蛇行して北上川へと合流(左写真)する。

  この付近一帯は野鳥の宝庫、だが開発が進めば野鳥の住かは失われてゆく。古い北上川跡の沼地は埋め立てられて農地になってしまった。こんなところでも鉄砲を持った人を見かけることもあり、ここを保護区にしてほしいと願っている人たちもいる。